詩吟の吟題で、一番といってもいいくらいよく知られている吟題は、おそらくこちらでしょう。
【詩の意味】
(上杉謙信の軍は)鞭の音もたてないように静かに、夜に乗じて川を渡った。
明け方、武田信玄方は、上杉の数千の大軍が大将の旗を立てて、突然前面に現れたのを見て、大いに驚いた。
しかし、まことに残念なことには、この十数年来、一剣を磨きに磨いてきたのに、打ち下ろす刃がキラッと光る一瞬のうちに、あの憎い信玄を討ちもらしてしまった。
(公益社団法人関西吟詩文化協会教本より)
吟者 上野釣恵
詩吟の吟題となる漢詩の中にはお酒の詩が幾つかあります。
その中から多くの人に愛されている吟題を3つご紹介しましょう。
【詩の意味】
花の咲いている山中で、君と私は向き合いながら、世俗のことを忘れて酒を酌み交わす。
一杯、一杯、また一杯と。
私はすっかり酔って眠くなったので、君はひとまず帰りたまえ。
明朝気が向いたら今度は琴を抱えて話に来てくれ。
(公益社団法人関西吟詩文化協会教本より)
吟者 嶋崎瑛簫
【詩の意味】
涼州の地に駐屯した出征兵士にとっては、名物の葡萄のうま酒を、月の光に照らされる杯で飲むのがもっとも趣がある。
今、それを飲もうとすれば、馬上でかき鳴らす琵琶の調べが酒杯を促すようである。
今、戦に出ようとするこの砂漠に酔い臥すことがあっても、人々よ笑わないでほしい。
昔から遠く西域への戦に駆り出された人たちの中で、幾人が無事に故郷に帰ることができただろうか。
(公益社団法人関西吟詩文化協会教本より)
吟者 川田紅祥
【詩の意味】
かたつむりの角の上のような小さな世界で人々は何を争っているのか。
あたかも火打石の火花のような一瞬のはかないこの世の中に、仮にこの身を置いているというのに。
金持ちであろうと貧しかろうと、それなりに楽しく暮らそう。
口をあけて気持ちよく笑わないのは、愚かな人である。
(公益社団法人関西吟詩文化協会教本より)
吟者 奥山紅雅